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Dust Spaces と RBAC の設定ガイド:企業 IT 管理者がカスタム AI アシスタントにおける部門間データ漏洩を防止する方法

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社内全体で生成 AI アシスタント(AI Agents / Assistants)を展開するにあたり、企業の IT 管理者やセキュリティ・コンプライアンス担当者は深刻なジレンマに直面しています。社内ナレッジベースと連携した自然言語 AI は生産性を飛躍的に高める一方、従来の検索拡張生成(RAG)アーキテクチャでは、部門を跨いだ致命的なデータ漏洩(Cross-Department Data Leakage)のリスクが常に潜んでいるためです。たとえば、マーケティング部門の一般社員が社内共通 AI に向かって「先月承認された役員報酬の改定内容を教えて」あるいは「ベンダーとの法廷闘争に関する機密訴訟戦略を要約して」と入力した場合、単一のベクトルストアからデータを取得する設計では、本来閲覧権限のない機密文書が容易に抽出・要約されてしまいます。

「給与に関する話題は答えないこと」といったプロンプトによる指示(Prompt Guardrails)は、巧妙なプロンプトインジェクションや婉曲的な質問、文脈の言い換えによって容易に突破されます。エンタープライズ環境におけるデータ分離は、大規模言語モデル(LLM)のコンテキストウィンドウに未承認データが絶対に投入されないよう、アーキテクチャレベルで確定的(Deterministic)に強制されなければなりません。

Dust は、Spaces(データ分離コンテナ)、ロールベースアクセス制御(RBAC)、SCIM を用いた IdP(Identity Provider)ディレクトリ同期、およびコネクタ単位のスコープ制御を組み合わせた独自の**2層権限モデル(Dual-Layer Permission Model)**によってこの課題を根本から解決します。本稿では、企業 IT 管理者が Dust Spaces と権限マトリクスを体系的に設計し、部門間の情報漏洩を完全に防ぐカスタム AI アシスタント環境を構築する手順を解説します。


1. 根幹となる仕組み:Dust の 2 層権限モデル

部門間のデータ漏洩を防ぐためには、まず「エージェントがデータにアクセスする権限」と「人間がエージェントを利用する権限」を明確に分離して理解する必要があります。従来の SaaS ツールは「ユーザー X が文書 Y を閲覧できるか」という単一レイヤーの権限モデルを採用していましたが、自律型 AI エージェントがユーザーに代わって複数文書を横断検索・要約する環境では、この前提が通用しません。

Dust は以下の 2 層権限モデルを採用しています。

[ 外部データソース (Google Drive, SharePoint, Slack, Notion) ]
                         │
                         ▼ (管理者によるスコープ制限と専用サービスアカウント)
                [ Dust Connections (接続) ]
                         │
                         ▼ (管理者が割り当てた特定データサブセット)
          ┌──────────────┴──────────────┐
          ▼                             ▼
   [ Open Spaces (公開) ]       [ Restricted Spaces (制限) ]
   (例: Company Data)           (例: 財務, 法務, 人事)
          │                             │
          ▼                             ▼
   [ 全社共通エージェント ]     [ 部門専用制限エージェント ]
          │                             │
          ▼                             ▼
   (ワークスペース全メンバー)   (当該制限 Space の所属メンバーのみ)
          ▲                             ▲
          └──────────────┬──────────────┘
                         │
                 [ ユーザーとグループ ]
               (IdP / SCIM により自動同期)

レイヤー 1:エージェントからデータへのアクセス(データ境界の隔離)

Dust でエージェントを構築する際、そのナレッジ検索およびツール実行権限は、指定された Spaces に厳密に紐付けられます。たとえば「技術サポート Space」と「Company Data」のみを参照するように設定されたエージェントは、技術的・物理的に「財務 Space」や「法務 Space」のベクトルインデックスを検索する手段を持ちません。この境界線はデータベースおよび検索レイヤーで強制されるため、未承認の文書チャンクが LLM の推論パイプラインに渡ることはありません。

レイヤー 2:人間からエージェントへのアクセス(デフォルト安全の可視性制御)

Dust には確立された原則があります。それは「エージェントが使用する Space によって、そのエージェントを閲覧・利用できるユーザーが決定される」という点です。デフォルト設定では、ユーザーはエージェントが依存するすべての Space に対するアクセス権を保持していない限り、そのエージェントをワークスペース上で検索・表示・呼び出しすることができません。

財務部門専用の Restricted Space を参照するエージェントが存在する場合、財務部門に属していない一般社員の画面上には、そのエージェント自体が表示されません。これにより、権限のないユーザーが高権限エージェントを踏み台にして社内機密を引き出す「プロキシ型インジェクション攻撃」を根本から防止します。


2. Spaces 設計戦略:公開ドメインと制限ドメインの分離

Dust では、すべてのナレッジ、文書、統合ツールが Spaces というコンテナに格納されます。空間構造を正しく設計することが、データ漏洩防止の基礎となります。

Open Spaces と Restricted Spaces の比較

項目Open Spaces(例: Company Data)Restricted Spaces(制限付き空間)
参加メンバーワークスペースの全メンバーが自動参加指定された個別ユーザーまたは IdP 連携グループ(SCIM)
管理権限ワークスペース管理者(Admin)のみワークスペース管理者(Admin)のみ
外部接続データ管理者が選択した全社共通ファイル・チャンネル管理者が部署ごとに選別した高機密ファイル・サイト
ネイティブデータ(フォルダ・URL)管理者および Builder のみ追加可能当該制限 Space の全メンバーが追加可能
関連エージェントの可視性ワークスペースの全社員に表示・利用可能当該制限 Space の権限保持者のみに表示・利用可能
主な用途全社就業規則、福利厚生案内、公開製品仕様給与明細、取締役会議事録、訴訟戦略、M&A 関連資料

Company Data の役割と運用上の鉄則

すべての Dust ワークスペースには、デフォルトで Company Data という Open Space が備わっています。

プラン別 Space 作成上限


3. 実装の 6 ステップ:セキュアな AI アシスタント環境の構築手順

部門間データ漏洩ゼロを実現するため、IT 管理者は以下の手順に沿って Dust の初期構成とガバナンス設定を進めます。

ステップ 1:SCIM 2.0 による IdP ディレクトリ同期の確立

手動でのユーザー管理は、権限の陳腐化や退職者の権限残存リスクを招きます。Enterprise プランでは、主要 IdP(Okta、Microsoft Entra ID、Google Workspace 等)との SCIM 連携を最優先で実施します。

  1. Dust 管理画面から Admin > Organization > Members > Groups > User provisioning > Set up Directory sync を開きます。
  2. ご利用の IdP を選択し、SCIM 2.0 連携手順を完了させます。
  3. 部署単位のグループ(例: dept-finance、dept-legal、dept-hr、exec-board)を Dust へプッシュ配信するよう設定します。
  4. これにより、異動や退職が発生した際、IdP 側の変更が即座に Dust へ反映されます。財務部から他部署へ異動した社員は、その瞬間に財務 Restricted Space および財務エージェントへのアクセス権を失います。

ステップ 2:専用サービスアカウントによるソースシステムのスコープ最小化

Dust のデータコネクタ(Google Drive、Microsoft SharePoint/OneDrive、Notion、Confluence、Slack など)は外部の業務システムと直結します。接続時のリスクを排除するため、以下を徹底してください。

  1. 個人の管理者アカウントを使用しない: 特定のシステム管理者の個人アカウントで認証すると、その社員の異動・退職で連携が遮断されるだけでなく、私的な下書き文書までインデックスされる危険があります。
  2. 専用のサービスアカウントを用意する:
    • Google Drive: dust-admin@yourdomain.com などの専用アカウントを作成し、AI に読み込ませたい共有ドライブ(Shared Drives)のみに対して閲覧・ダウンロード権限を付与します。
    • Microsoft SharePoint / OneDrive: Entra ID でアプリケーション登録を行い、Sites.Selected アプリケーション許可を付与するか、専用アカウント(dust-service@yourdomain.com)を作成して PowerShell(Grant-PnPAzureADAppSitePermission)等でアクセス可能な SharePoint サイトコレクションを厳格に限定します。
    • Slack: Dust Bot を全チャンネルに追加せず、公開チャンネルや特定のリサーチ用アーカイブチャンネルのみに限定して招待します。
  3. フォルダツリー単位で選択する: Dust 側の同期設定モーダルでは、ルート階層を一括選択せず、必要なサブフォルダのみを個別にチェックして同期します。

ステップ 3:Restricted Space の作成とプロビジョニンググループの紐付け

コネクタ経由でデータが取り込まれても、管理者が Space に紐付けるまではエージェントから参照されません。

  1. Dust の Spaces タブで New をクリックします。
  2. 空間名を入力します(例: Finance & Accounting)。
  3. 種類として Restricted を選択します。
  4. メンバー設定で Provisioned group access を選択し、SCIM 連携済みの IdP グループ(例: dept-finance)を指定します。
  5. 作成した Space の詳細画面に入り、Connected Data から Add data from connections を選択します。
  6. 前段で同期したデータツリーの中から、財務部門専用のフォルダや SharePoint ライブラリのみを選択します。
  7. Save をクリックします。これで高機密データが特定の制限コンテナ内に隔離されます。
Dust 管理画面:Restricted Space の作成イメージ
┌─────────────────────────────────────────────────────────────┐
│ 新規 Space 作成 (Create New Space)                          │
│ 名前: [ Finance & Accounting                              ] │
│ 公開区分: ( ) Open (公開)   (•) Restricted (制限)           │
│ メンバー割り当て:                                           │
│   [ Provisioned group access (IdP グループ連携)           ▼]│
│   対象グループ: [ dept-finance x ] [ exec-cfo x ]           │
│                                                             │
│ 割り当てデータ (Connected Data):                             │
│   [x] Google Drive: /Shared Drives/Finance/FY26_Budgets/    │
│   [x] SharePoint: /sites/FinanceOps/Financial_Statements/   │
│   [ ] Google Drive: /Shared Drives/Company_Wide/ (除外)     │
│                                                             │
│ [ キャンセル ]                              [ Space を作成 ]│
└─────────────────────────────────────────────────────────────┘

ステップ 4:ワークスペースロールとビルダー権限の統制

初期状態の Dust ワークスペースでは、全メンバーが自由にエージェントを作成・公開できるようになっています。社内ガバナンスを効かせるため、Admin > Governance で権限を絞り込みます。

  1. Create agents & Publish agents: Everyone から、承認済みの作成者グループ(例: AI Builders)または Admin only に変更し、野良エージェントの乱立を防ぎます。
  2. Create skills & Manage skill availability: 外部ツール連携や API 実行を伴うスキルの作成は、セキュリティ確認が取れるまで Admin only に留めます。
  3. ロールマッピングの実施: Admin > Members > Roles にて、グループ単位で役割を付与します。システム基盤全体を管理する社員のみに Admin ロールを付与し、各部署のリーダーには Manager ロールまたは Group Managers(グループ管理者) を任命して、自部門の利用枠やメンバー管理のみを委譲します。
  4. セキュリティ権限の個別委譲: セキュリティ監査やネットワーク設定に関わる Access security features は、Manager にもデフォルトでは付与されません。セキュリティ専任チームに対してのみ個別に付与してください。

ステップ 5:部門専用 AI アシスタントの構築と可視性テスト

エージェント作成画面(Agent Builder)で部門専用エージェントを構築する際は、以下のルールを徹底します。

  1. Instructions にて、業務目的、回答ポリシー、取り扱う情報の範囲を明確に定義します。
  2. Knowledge / Tools 設定にて Search data sources を追加します。
    • ナレッジソースとして、該当する部門の Restricted Space のみを選択します。
    • 全社規定を参照させる必要がある場合を除き、不用意に Company Data を併用しないようにします。
  3. 複数 Space 指定時の積集合ルール(AND 条件):
    • エージェントが Space A(財務) と Space B(経営陣) の両方を参照している場合、ユーザーが Space A と Space B の両方に所属していなければ、そのエージェントを利用できません。
    • 一方しか持たないユーザーにはエージェントが表示されなくなります。意図しない利用不可トラブルを避けるため、通常のエージェントは単一の Space に紐付ける設計を推奨します。

ステップ 6:ツール実行時の認証モード設定(Personal vs. Shared)

エージェントが外部ツール(GitHub、Salesforce、Jira、HubSpot、MCP サーバー等)を介してアクションを実行する場合、Knowledge > Tools で認証方式を選択します。


4. 監査ログ、モニタリング、およびアカウントライフサイクル

安全な設計が完了した後は、ポリシーが遵守されているかを検証・追跡する監査体制が必要です。

┌──────────────────────────────────────────────────────────────┐
│                  エンタープライズ・リアルタイムイベント流    │
└──────────────────────────────┬───────────────────────────────┘
                               │
            ┌──────────────────┴──────────────────┐
            ▼                                     ▼
     [ 人間による直接操作 ]                 [ AI エージェントの自律動作 ]
     actor: "user"                          actor: "user"
     action: "agent.executed"               metadata.actor_type: "agent"
     targets: ["agent-finance-01"]          metadata.initiating_user: "..."
            │                                     │
            └──────────────────┬──────────────────┘
                               ▼
                 [ Dust Enterprise 監査エンジン ]
                               │
            ┌──────────────────┴──────────────────┐
            ▼                                     ▼
     [ 管理画面の改ざん耐性ログ ]           [ 外部 SIEM へのストリーミング ]
     (Admin > Security > Audit Logs)        (Datadog, Splunk, S3, GCS)

監査ログによる責任追跡:人間と AI の実行主体分離

Enterprise プランの監査ログ(Admin > Organization > Security > Audit Logs)は、改ざん耐性を持つ時系列ログを提供します。

ログには以下の重要情報が含まれます。

SIEM へのリアルタイムログ送信

Datadog、Splunk、AWS S3、Google Cloud Storage(GCS)、または任意の HTTPS エンドポイントへのログストリーミングがサポートされています。インバウンド通信を制限している社内環境では、Dust ドキュメントに記載されている WorkOS の配信 IP アドレスをホワイトリストに登録してください。

退職・異動時のライフサイクル保護

社員が退職する際:

  1. 社内 IdP でアカウントが無効化されると、SCIM 経由で Dust アカウントも即座に停止されます。
  2. すべての Restricted Space へのアクセス権が瞬時に遮断されます。
  3. 当該ユーザーが作成していた個人用自動化タスク(Triggers)は自動的に完全削除されます。
  4. 管理者の引き継ぎ手順: 退職処理前に Programmatic Usage > Automations を確認し、残すべき定周期タスクのエディターを変更してください。未公開エージェントの作成者が退職する場合は、管理者が Agent Builder 上で Become an editor as an admin をクリックして編集権限を引き継ぐことができます。

5. アーキテクチャ設計マトリクスと IT チェックリスト

Space および権限マトリクス一覧

部門 / データ分類Space 種別アクセス権ソースコネクタ側のスコープ戦略ツール認証モード推奨されるエージェント例
全社共通ナレッジOpen (Company Data)全メンバー自動参加社内規程、全社イントラ Notion、公開 WikiShared (共有)全社 Q&A、新入社員オンボーディング (@dust)
財務・会計Restricted (制限)SCIM: dept-finance予算管理専用 Google ドライブ、決算フォルダShared (集計用)月次決算支援、予実差異分析アシスタント
法務・コンプライアンスRestricted (制限)SCIM: dept-legal契約書アーカイブ、規制対応文書、訴訟記録Personal / 厳格共有契約条項レビュー支援、法務デューデリジェンス
人事・労務Restricted (制限)SCIM: dept-hr人事考課表、給与テーブル、役員評価シートPersonal (個人別)人事評価キャリブレーション、社内告知文起草
営業・CRMRestricted (制限)SCIM: dept-sales提案書ライブラリ、見積書、HubSpot / SalesforcePersonal (個別 OAuth)商談インテリジェンス、パイプライン要約エージェント
開発・インフラRestricted / OpenSCIM: dept-engGitHub ディスカッション、アーキテクチャ RFCPersonal (GitHub)コードベース解説アシスタント、リリースノート生成

本番展開前の IT 管理者セルフチェックリスト

構造化された Space 設計と統制された RBAC を組み合わせることで、社内の機密データを鉄壁の防御で保護しながら、全社規模で安全に AI アシスタントを展開することが可能になります。


参考文献