特定の独自AIモデルにユーザーを囲い込み、月額料金に高いトークン上乗せ料金を課す一般的なAI執筆ツールとは異なり、Novelcrafterは**BYOK(Bring Your Own Key:APIキー持ち込み)**アーキテクチャを採用しています。Novelcrafter自身は長編執筆に特化した基盤環境――集中しやすい原稿エディタ、シーンビート管理、体系的な世界観設定資料集(Codex)――の提供に専念し、本文生成を担うAIモデルの選定や計算リソースはすべて執筆者自身に委ねられています。作家は商用最先端モデルからアグリゲーターサービス、さらにはオフラインで完全に動作するローカルモデルまで自由に接続可能です。
この環境を自在に活用するためには、API認証情報の接続、プロンプトプリセットへのモデル割り当て、そして作風に合わせた生成サンプリングパラメータ(Temperature、Top P、ペナルティ設定など)のチューニングという3つのステップを把握する必要があります。
1. 外部AIプロバイダーとAPIキーの接続
NovelcrafterにおけるAI接続はアカウント単位の設定であり、画面上のプロフィール画像 → Open Settings → AI Credentials(またはAI Connections)からアクセスします。最も重要な注意点として、すべてのAPIキーはクラウドのデータベースではなく、お使いのブラウザのローカルストレージ(Local Storage)に保存されます。ブラウザのキャッシュを削除した場合、プライベート/シークレットウィンドウを使用した場合、あるいは別のPC端末に移動した場合は、再接続するか、設定のエクスポート/インポート機能を利用して移行する必要があります。
方法A: OpenRouterの接続(大半の作家に最も推奨)
単一の事前チャージアカウントで多様なモデルを使い分けたい場合、OpenRouterが最も柔軟で実用的な選択肢です:
- AI CredentialsのメニューでOpenRouterを探し、Connectをクリックします。
- Continue to OpenRouterを選択し、ログインまたは新規登録を行って接続を承認します。
- 接続時にAPIキーごとの利用上限額(Credit Limit)を任意で設定できます。注意点:上限額を設定してそれに達した場合、Novelcrafter側で「無効なAPIキー」または「クレジット不足」のエラーが表示されます。その際はOpenRouterの管理画面で上限を引き上げるか解除してください。
- 接続完了後、AnthropicのClaudeシリーズ、OpenAIのGPTモデル、Mistral、Llama系ファインチューンモデルなどを単一のプリペイド残高から呼び出せます。
方法B: OpenAIの公式API直結
OpenAIの開発者アカウントをお持ちの場合:
- OpenAIのプラットフォーム管理画面でAPIキーを発行します(一般的な会話用「ChatGPT Plus」のサブスクリプションとは別物であり、ChatGPT PlusのアカウントではAPI通信は行えません)。
- NovelcrafterのAI Credentials画面でOpenAIを選択し、キーを貼り付けて保存します。
方法C: OpenAI互換エンドポイント(カスタムクラウドおよびローカルモデル)
Novelcrafterは標準化されたOpenAI API規格に準拠したサードパーティプロバイダーやローカルモデルの接続にも対応しています:
- AI Credentialsの一番下までスクロールし、OpenAI Compatible Connection → Addをクリックします。
- 任意のプロバイダー名(Fireworks、Grok / xAI、Groq、Mancer、NanoGPT、NovitaAIなど)とBase URLを入力します。互換URLの末尾は通常
/v1となります(例:https://api.groq.com/openai/v1やhttps://api.x.ai/v1)。 - APIキーを入力すると、Novelcrafterが対応モデルの一覧を自動検出します。自動取得されない場合はUse custom model listにチェックを入れ、モデル識別子をカンマまたは改行区切りで正確に入力します。
- 完全オフライン環境での執筆:LM StudioやOllamaを用いてPCローカル環境でモデルを動かしている場合、Base URLにローカルアドレス(例:
http://localhost:1234/v1)を指定できます。これにより、原稿データが外部に一切送信されず、トークン費用も完全にゼロで執筆できます。 - Anthropic公式コンソールに関する注意事項:現代のブラウザのCORS(クロスオリジン制約)により、ブラウザ上のWebアプリからAnthropicのAPIコンソールへ直接リクエストを送ることは技術的に遮断されます。Claudeを利用したい場合は、OpenRouter経由で接続するか、LiteLLM等のプロキシサーバーを経由させる必要があります。
2. プロンプトプリセット(Prompts)におけるモデルの管理と割り当て
APIキーの登録後、モデルは全機能共通で1つだけ固定されるのではなく、執筆タスクごとに異なるプロンプトへ割り当てられます。Novelcrafterでは、シーンビートからの本文生成(Scene Beat Completion)、文末からの続き執筆(Continue Writing)、シーン要約(Scene Summarization)、対話型ブレインストーミング(Workshop Chat)などが独立したプロンプトとして設計されています。
各プロンプトで使用するモデルを編集するには:
- サイドバーまたはメインメニューからPrompt Library(プロンプトライブラリ)を開きます。
- 設定したいプロンプト(例: 標準のGeneral Purpose Scene Beat Completion)を選択します。
- システム既定のプロンプトは直接編集できないため、Clone(複製)をクリックしてカスタムコピーを作成します。
- 編集画面のGeneralタブからModelsを選択します。
- ここで個別モデルの追加や削除を行ったり、事前に作成したModel Collections(モデルコレクション)を紐づけたりできます。「高速アイデア出し用(Groq Llama 3など)」と「本番描写用(Claude 3.5 Sonnetなど)」といった用途別のコレクションを用意しておくと、原稿執筆時の切り替えがスムーズになります。
3. 本文生成サンプリングパラメータ(Prose Settings)の調整
フィクション執筆においては、モデル自体の性能差以上に、パラメータ調整が文章のトーンやリズム、論理的一貫性を左右します。Modelsリスト内の各モデル名の横にある展開矢印(>)をクリックすると、詳細なパラメータを調整できます:
1. Temperature(温度:創造性と忠実性のバランス)
- 仕組み:次に出力されるトークンの確率分布の平坦さを制御します。
- 低めに設定する場合(0.3 ~ 0.6):前後のあらすじ要約、特定のキャラクターの口調の厳格な維持、あらかじめ決めた手がかりを忠実に配置するミステリーのプロット進行などに適しています。
- 高めに設定する場合(0.7 ~ 1.0以上):文章がありきたりで退屈に感じられるときや、豊かな感覚描写、幻想的な夢のシーン、ダイナミックな戦闘場面を描写する際に表現の多様性を高めます。
2. Top P(核サンプリング:語彙の幅と異常語の抑制)
- 仕組み:累積確率が一定割合に達する上位の語彙候補のみに絞り込みます。
- 実践での活用:高Temperature時に不自然な造語や意味不明な記号、スペル崩れが発生した場合、Top Pを0.85 ~ 0.90程度に引き下げることで、安全で一般的な語彙に制限して破綻を防ぐことができます。表現の幅を広げたい場合は引き上げます。
3. Max Tokens(最大トークン数と出力ペース)
- 仕組み:1回の生成で出力されるトークン数に物理的な上限を設けます。
- 実践での活用:AIモデルは設定上限に達した瞬間、文章の途中であっても強制停止します。そのため、文章の長さを制限する目的で極端に小さい値を設定するのは避けてください。1つのシーンビートを余裕を持って描き切れる値(例: 800 ~ 1,500トークン)を設定し、希望する文字数はプロンプト内の指示やプロンプト入力変数で誘導するのが鉄則です。
4. ペナルティ設定(重複表現や堂々巡りの防止)
- Frequency Penalty(頻度ペナルティ):生成テキスト内にすでに複数回登場した単語の再出現を抑制します。「突然」「見つめた」など同じ接続詞や動詞を連発する癖がある場合、少し引き上げます(+0.1 ~ +0.3)。高くしすぎると登場人物の名前まで言い換えようとするため注意が必要です。
- Presence Penalty(存在ペナルティ):すでに言及された話題や概念が再度取り上げられるのを抑制します。会話シーンや議論で同じ話題をループしてしまうのを防ぎ、新しい展開を導入させるのに有効です。
- Repetition Penalty(繰り返しペナルティ):ローカルモデルやオープンソースモデルで広く使われる設定(一般的に1.05 ~ 1.15)で、同一フレーズの反復を力強く防止します。
- Reasoning / Thinking Effort(思考・推論の深度):推論機能を備えた最新モデル(Claudeの思考モードやOpenAIの推論シリーズ)において、本文を書き出す前にプロットの整合性やCodexのキャラクター設定をあらかじめ吟味・検討する深度を制御します。
4. Writeエディタでの実践的な執筆フロー
設定を完了した後は、通常の執筆作業の中で直感的にモデルを呼び出せます:
- 原稿のWrite画面に入り、対象のシーンを開きます。
- 本文エディタ内の空行でスラッシュ
/を入力し、メニューからScene Beatを選択します。 - そのビートで発生する出来事やキャラクターの心情を入力します。Novelcrafterは入力内容からCodexの登録項目(登場人物、場所、重要アイテム)を自動的にリンクします。
- **Play(▶)**ボタン横のドロップダウンから調整済みのモデルプリセットを選択するか、Tweak and Generateをクリックして一時的に条件を調整します。
- 生成完了後、Novelcrafterでは4つのアクションが選べます:
- Apply:生成された文章をそのまま本文に採用します。
- Retry:今回の結果を破棄し、同じ条件で再度生成し直します。
- Discard:生成結果を破棄して取り消します。
- Section:結果を折りたたみ可能なセクション(Section)として本文内に保持します。異なるモデルで数パターン生成したのち、優れた描写をパッチワークのように継ぎ合わせて最終稿を仕上げる「キットバッシング(Kitbashing)」に最適です。
ブラウザ完結のセキュアなBYOK接続、柔軟なプロンプトライブラリ、そして緻密なサンプリングパラメータの調整を組み合わせることで、執筆者はAIにかかる費用を完全にコントロールしながら、作品世界に最適な文体を自在に構築できます。